武市賢太郎ブログ
先日、辻井伸行さんのコンサートに行ってきました。実は、何年か前にTVのドキュメンタリー番組で存在を知って以来、彼のファンなのです。
言わずもがなですが、彼は盲目です。しかしそんなハンディキャップを抱えながらも世界的なピアノコンクールで日本人で初めて優勝するという快挙を成し遂げたり、自ら手がけた作曲が数々の映画やドラマに起用されるなど、現在大活躍の音楽家です。
今回はオルフェウス室内管弦楽団とのピアノコンチェルトに出演。
コンサートが始まり、最初の曲は、オルフェウス室内管弦楽団によるベートーヴェンの「運命」。
「運命」ってなんだか仰々しい曲だと思っていたけれど、”室内管弦楽団”だけあって、こじんまりとした編成での丁寧な演奏は、仰々しさと言うよりはむしろ親密さを感じさせてくれる内容でした。
そしてサントリーホールの音響も素晴らしい。
休憩の後、辻井伸行さんの登場。
はじめて見る本物の辻井伸行さん。ピアノのところまで、楽団の方に手を引かれながら歩いてきました。
演目はベートーヴェンの「皇帝」。
もともとあまり馴染みの無い曲だったけれど、この日のために何人かの演奏者の「皇帝」を前もって聞いておきました。聴けば聴くほど「なんかいいなぁ」と思える曲です。
そして演奏スタート。
・・・・。
第一楽章の演奏が始まった瞬間から、そのあまりの素晴らしさに(映画の宣伝文句さながらに)思わず涙が溢れてきました。
目の見えない彼がどんな世界を感じているのか、全てを計り知ることなどとてもできないけれど、少しでも彼の感じている世界を知りたくて、僕も演奏の途中から目を閉じました。
目を閉じて彼が奏でる音色に身を委ねていると、自分の中にある寒々とした空洞が温かく満たされてくるような感じがしました。
第二楽章に入ると、その熟練された耳への愛撫のような優しい音色に、次第に恍惚としてきてしまいました。あまりの心地よさに、このまま聴いていたら昇天してしまいそうだったので 途中で目を開けました。
第三楽章も力強く、優しく、軽やかで、深みがあって、本当に素晴らしい演奏でした。
演奏が終わり、鳴り止まぬ拍手の中で、真っ赤に紅潮しながらお辞儀をする彼の姿に、再び涙。
兎にも角にも、こんな素晴らしい演奏に巡り会えて本当に幸せな1日でした。
武市賢太郎