武市賢太郎ブログ
これまで美容業界は、”髪結い”の時代や”ヴィダルサスーン”の時代。日本においてはカリスマ美容師ブームの時代など、さまざまな固有の変遷を経て今日にいたります。僕にとってとても魅力的な業界です。
しかし、一見華やかに見えるこの業界も、近ごろはずいぶん荒れています。
極端に安価な美容室が増加し、ネット上ではクーポン合戦が繰り広げられ、現場の美容師は疲弊しています。
昔、安売り美容院で働いた経験のある知人が
「安売り店というのは、とにかく効率が求められるんだ。そこで働いてる頃は、毎日がまるでゾンビゲームをしてるみたいだったよ。客がゾンビに見えてくる。倒しても倒してもやって来るから、毎日そいつらをやっつける感覚になるんだ。まぁ、ゲーマーにはおすすめだね。」
と言っていたけれど、
お客様をゾンビにしか思えない仕事って、なんだか救いようがないですよね。
また、自店で撮影してもいないヘアスタイルを、さも自分の作品かのようにポータルサイトに寄稿することが、当たり前に行われています。
エンブレムの盗作疑惑より酷い状況です。
「そうでもしないと、お客さんが来ないんだよ」
というような声が聞こえてきそうですが、本当にそうでしょうか?
その人達に問いたい。
そもそも、美容師の仕事に真摯に取り組んでいますか?
商品である自分自身が中古品になっていませんか?
ひとりひとりのお客様と誠実に向き合っていますか?
僕は美容師の仕事は”文化”だと思っています。固有の文化であると同時にファッション文化に含まれているとも言えます。芸術文化の要素も含んでいます。さらに”技術の継承”という見地からは伝統文化とも言えるかもしれません。どちらにしろ文化です。
茶道や花道のようなハイカルチャーではありませんが、ハイカルチャーになりえる資質を含んだ仕事だと思います。
やればやるほど、この仕事の奥深さに気付かされます。
技術の習得もお客様の応対においても一筋縄にはいきません。それ相応の時間とエネルギーと費用をかけて少しづつ上達していきます。そして、ようやく一人前になってもそれで終わりではありません。流行も傾向もどんどん変わっていきます。だから習得した技術をそれなりにアップデートしていかないと、すぐに中古美容師に成り下がってしまいます。
こうした背景を考慮しても、これまで費やした時間や労力に鑑みても、適正料金はいただくべきです。こんな事を言うのはあるいは傲慢かもしれませんが、「適正料金でお客様に支持いただけないのなら、安易に安売りに走り業界を荒らすのではなく、美容師自体を辞めた方が世の中のためだろう」と思います。
現代の生き馬の目を抜く資本主義社会で生き残っていくことは、確かに大変な事かもしれません。しかし文化性を失い、思慮を欠いた商売は、商売ですらありません。
昔、二宮尊徳はこう言っています。
「経済なき道徳は戯言であり、道徳なき経済は罪悪である」と。
これまでの文脈から、”道徳”は”文化”と言い換えることができると思います。”経済”は”商売”とい言い換えることができます。「文化性の欠落した商売は罪悪」なんです。
僕が思うに、美容師の仕事は「7割は文化活動にコミットし、3割を商売にコミットする」くらいが丁度いいと思います。
商売を主にし、文化性を失った美容室は、ごく控えめに表現して、俗物でしかありません。
これからも美容業界の価値が損なわれないことを願うばかりです。
武市賢太郎
と、つらつら業界の現状への憂いを書き連ねてきましたが、僕がこうして一石投じたところで流れが変わるわけではありません。さらに堕落していくかもしれません。
とは言えこうした現状に対し、僕と同じように憂いを抱いている美容師さんも多いはずです。
小田原店の移転オープンに際し、こうした思いを共有でき、美容師としてまっとうな仕事をしたいと望んでいる人材を募集します。
一緒に価値のある仕事をしていきませんか??
求人情報はこちら